「殺人誘発人間、ねぇ……」


    そう言われて気付くのは、少々遅すぎたのかもしれない。
    否、自分の気付いていながらも否定していたところもあった。

    俺と関わった人間が×××することが分かったのは、16歳の夏だった。



          プロローグ



    俺は、自分が他の奴とは違うことは知っていた。
    親が殺人を犯し、刑務所にいつことはまだまだ序の口、俺と関わりを持った人間の中で現在刑務所にいるのが67人、殺さ
   れた人間は34人。
    最早自分が他人にとって<迷惑>な存在であることは明白なのだ。
    だから、死のうとした。
    工事中のビルの屋上、天を仰いで現世に別れの言葉を呟いた後。
    飛び降りようとしたその瞬間―――――――――――――――。


   「死ぬのか、お前?」
   「――――――!?」


    突然の声に驚き、後ろに倒れてしまう。
    空を見上げれば、一人の男が俺を上から見下ろしていた。
   「……なんだ、お前」
    久しぶりに人が俺に喋りかけてきた気がして、なんだか変な感じだ。
   「俺は、人を何度も殺してきたが、目の前で自殺するってのは始めてのパターンだな」
    その男はそう言った。
    普通なら目の前の人間が人殺しであることに驚くべきなのだろうが、俺は何度も嫌というほど体験している。
   「虚ろな眼してんじゃねぇよ。どうせ死ぬなら笑顔で死ね」
    余計な御世話だ。殺人犯のクセにこれから死ぬ人間に助言してんじゃねぇ。
   「――――――――――大体、お前の所為でタイミング逃したじゃねぇかよ」
   「おお、やっと喋った。もしかしてもう死んでるかと思ったぞ」
    ……どうせ俺は、もう死んでるのと同じなんだよ。
   「……なぁ、殺人犯」
   「なんだよ」
   「俺、好きにしていいぞ。もう飛び降りるのも面倒だ。起き上がるのも面倒だ。歩くのも面倒だ」
   「…………」
    殺人犯は少しの間俺を見つめた後、


    俺に肩を貸した。


   「よいしょ」
   「…………」
   「なにやってんだ。せっかく手を貸してやってんだから少しくらい足を動かせ」
    そんなことを言い出した。
    なにを考えているんだ、この馬鹿は?
   「殺さないのか、俺を」
    自分では心の中で思ったつもりだったが、何故だか声に出してしまう。
    そして、殺人犯は答える。
   「殺さねぇ。たっぷり有効活用してやるから、覚えとけ」
   「…………」
   「おっと、今更取り消しってのは無駄だぞ。俺はハッキリと聞いたからな、『俺、好きにしていいぞ』っていう
   死にそうな奴からのお誘いを」
    そんな気持ち悪い意味合いでとられていたのか。
   「だから言われた通りにしてやる。俺はお前を好きなようにするさ」
    ふと思った。
    俺は、周りの奴を不幸に陥れる<<迷惑人>>。
    今まで、俺と関わりを持った奴は確実に死と同等のなにかを負うことになる。
    だが、何故か、何故かはわからないが……。


    こいつなら、俺のこの呪いに打ち勝ってしまうように思えてしょうがない。


    本当に何の根拠もない、もしかしたらただの思い込みなのかもしれない。
    だが、試してみようと思った。
    こいつは、多分俺の今までのことを話しても「それがどうした?」と答えそうな奴だ。
    それでいい。
    俺を越えてみろ、殺人犯。
    今まで俺が体験してきた悲劇は偶然でした、とでも言う風に平然と人殺しを続けてみろ。
   「……さて、とりあえず現在の俺の隠れ家へ案内するか」
   「もういい。自分で歩く」
   「お?」
    俺が突然自分で歩き出したことに殺人犯は驚いたようで、「どうした?」と俺を変人だというような眼で訊い
   てきた。
    いや、まぁ自殺しようとしたんだし変人なのかもしれないが。
   「いや、お前で遊んでみようと思って」
   「生きる希望を見つけたってわけか?しかし、殺人犯でどう遊ぶってんだ?」
    そうさ。殺人犯であるお前だからこそできる遊びだ。
    精々俺を楽しませてくれよ。せめて1ヶ月はもってもらわないと困る。
   「お前こそ、俺を連れてきたことを後悔するんじゃねぇぞ、殺人犯」
   「……へぇ、なんか常人じゃなさそうだな、お前。まあ自殺するくらいだからな」
    お前の所為で未遂に終わったんだが。
    それも一つの可能性か、それともまた俺に地獄を見せるための演劇か。
   「俺は殺人犯、“斗那戎(トナ・カイ)”。これからお前を一生奴隷として扱うつもりでいる」
   「俺は迷惑人、“鬼崎千(オニザキ・セン)”。これからお前で一生遊んでいくつもりでいる」


    これが、全ての始まりとなる“序章”。


    この選択によって、俺の人生は方向転換を始めたことに気付くのはまだ大分先の話になる。
 








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